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約50年ぶりに内部構造を一新! 三菱「霧ヶ峰 FZシリーズ」開発キーマンインタビュー(前編)

2021年6月10日

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二つのファンを搭載した三菱「霧ヶ峰 FZシリーズ」のエアコンが話題となっています。
同社自らが1968年に開発し、今のエアコンの室内機のスタンダードな構造になっている「ラインフローファン」を打ち破り、全く新しい構造にしています。
従来は、細長いラインフローファンの周りを熱交換器が囲むような構造でした。FZシリーズは、天面に平らなプロペラファンを2つ搭載。その下に熱交換器をW字型に配置した、全く異なる構造です。
1台で異なる温度空間を実現する世界初の「パーソナルツインフロー」という新技術について、開発キーマンであるルームエアコン製造部 先行開発グループの松本崇氏にお話をお聞きしました。
 今までのエアコンと何が違うのでしょうか。プロペラファンがついているのはわかるのですが、変わったことによって得られるメリットは何ですか?

松本氏 外見は今までのエアコンと変わらないように見えると思います。しかし、詰め込んでいる技術は今までのエアコンとは全く違います。
パーソナルツインフローという機構は、見てわかるように二つのプロペラファンが搭載されています。従来のエアコンは、ラインフローファンをモーターで動かしているのに対して、今回はプロペラファンを二つ乗せることによって、左右独立の気流を作り出すことができます。
従来のライフローファンは、エアコンの吹き出し口から同じ風量で部屋を空調しているのに対して、2つのファンを使うことによって左右独立した自由自在な気流が作ることができます。
リビングにいる快適な温度は人それぞれ違います。微妙な温度の感覚に対して、ジャストフィットな気流を送ることができる。これがFZシリーズの技術機能となっています。
 一つの吹き出し口から、二つの気流が作れるんですね。
松本氏 私も非常に暑がりなのでどんどん冷房の設定温度を下げてしまい、寒がりのかみさんに怒られます(笑)。
夏場ではみなさん経験しているであろう、この大きな課題に対して、我々技術側でもう一度このニーズを解決するための手段と、お客様の一番のベネフィットである省エネ性を両立させるためにどうするべきかと内部で議論していて、一つの技術の答えが、パーソナルツインフローという技術でした。
我々は今まで課題に対してトライしてきたのですが、さらなるパーソナルな空調を目指す中で、今回選択したのがこの手段になったのです。
“さむがりさん、あつがりさん"はパッと出てきたニーズではなくて、昔からずっとありました。なんとかしなければいけないという思いはありましたが、ラインフローファンの技術の延長線上で考えてきたので、壁につきあたりながら、絶対的なニーズの解決と、省エネ性の両立といったところで技術開発をしてきました。
 ラインフローファンでは壁があったのですね。それを打ち破ったきっかけはありますか。
松本氏 各社との競争の中で、省エネ性はよそに負けない開発を常に念頭に置いたうえでロードマップにのっとって開発しています。
ずっとその競争の中で進化させてきたのですが、最近のエアコンは非常に大きくなってしまいました。省エネを追うためには中にある熱交換器をたくさん乗せなければならない。至ってシンプルなんですけど、ラインフローファンの構造の制約の中で、熱交換器を増やすとデザインに影響が出て、エアコンの奥行きがどんどん大きくなるという課題がありました。
それは現行の技術では、もうどうすることもできないのです。数値競争の世界に入ってしまい、お客様の求めている製品ではなくなってしまいました。どんどん奥行きが大きくなっているのです。
 省エネ性は向上しているものの、大きさなどのデザインは、客のニーズから離れていったわけですね。
松本氏 ここ数年間はそんな状況でした。それがラインフローファンと熱交換器のあるエアコンの技術的な限界なのか?といったところも検討していました。
実はラインフローファンの気流特性というのは、各社とも洗練されていて、効率を含めても限界に近いところまで性能が上がっています。省エネの低減率などは、昔は何十パーセントも下がったんですが、この10年でみるとほとんど下がっていません。
省エネ技術の進歩が飽和してきている中で、お客様のニーズに応えながら省エネをより改善していく術を模索していて、そこで着目したのがファンなんですよ。
ファンとしての、風を送るファン効率という視点でみると、ラインフローファンというのは30%くらいの効率になる。それに対してプロペラファンは50%のファン効率になります。要は20%の理論的な価値、可能性というのがあったんですね。
そうはいっても、1968年からずっとラインフローファンでやっていたわけですから、簡単に変えることができませんでした。試験も含めて品質についても我々はかなりのノウハウを持っていましたので、20%のプロペラファンにかけるというのも勇気が必要でした。ただ、20%というのは省エネを改善する上で大きな差なのです。
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▲上がプロペラファン、下が従来使われていたラインフローファン
 なかなか変えることができなかったのは、ラインフローファンの技術がそれだけ優れていたということでしょうか。
松本氏 我々が年末に大きな方針会議というのがあって、「来年度はこんなエアコンを作る」という方針を決めています。しかし、「来年はプロペラファンにする」といって簡単に来年出せるものではありません。
ラインフローファンに最適化されてエアコンは作られているといっても過言ではない状況で、弊社でも半ば毎年延長してちょっとずつ進化させてきたという、バックボーンがありました。
訴求を変えたり、センサーを追加したりといったことはできるのですが、エアコンとしての基本技術はほとんど変えていませんでした。
このベースのある技術をガラッと変えることにしたのです。タブーとは言わないんですが、非常に大きな勇気がいりました。何もかも新規に考えて開発しなければなりませんから。
本当に可能性があるのか、先に先端総研とかR&Bの研究のところで検討してもらって、「可能性がある」と判断されたところから始まりました。
そんなわけで、この開発は7年くらいかかり、ようやく製品にたどりついたのです。
↓FZシリーズの詳細につきましては、三菱の特設サイトをご覧くださいね↓
https://www.mitsubishielectric.co.jp/home/kirigamine/newsfz/
(つづく)