世界遺産「唐招提寺」の保存修理が完了、美しい障壁画を自然に照らすLED照明を見てきた
教科書で見たことがある有名な「国宝・鑑真和上坐像」は、奈良市にある世界遺産の唐招提寺に安置されており、東山魁夷画伯が描いた襖(ふすま)絵なども収められています。
パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は、その襖絵を照らすライティングについて、報道陣に詳細を公開しました。
修繕をきっかけに天井に新しくLED照明を設置
招提寺御影堂は昭和39年(1964)に鑑真大和上像のために移築され、東山魁夷画伯が描いた襖(ふすま)絵や障壁画が奉納されました。昭和50年に移築から約50年を経て、地盤沈下や雨漏りなどが目立つようになったことから、平成28年(2016年)から文化財保護のため保存修理事業が行われました。そして、令和4年(2022年)3月31日に補修事業が無事竣工しています。
修繕中に行われたのが、東山魁夷の御影堂障壁画「濤声」を収めた部屋照明の改修です。
唐招提寺 副執事長の石田太一氏は「修繕中、北は北海道から 南はあの九州まで展示会を行いました。展示会に行くたびに、どの会場でも素晴らしい照明でライトアップされていました。これを、なんとかこの御影堂にもつけられないかなと思ったのがきっかけです」と語りました。
鑑真の一生を描いた東山魁夷の美しい絵をライトアップ
鑑真和上は、日本に仏教を正しく広めるため742年から来日を志しましたが、海賊や風波の災で5度挫折の後、754年に渡来。戒律を学ぶ人たちのための修行の道場を開いた、日本律宗の開祖です。
東山魁夷が描いた「濤声」とは「なみのおと」のことです。日本海の荒々しい沖合で、白波と岩が佇んでおり、奥に進むと優しい穏やかな波となっています。これは、鑑真和上の一生を描いていると言われているそうです。中国から仏教を伝えるために6度目の航海で来朝した鑑真和上が最後の5年をおだやかに過ごしました。
このライトアップを依頼されたのがパナソニックEW社です。
文化財の建造物には一切釘を打ってはならない……その課題解決とは
「頭上のところにあのスポットライトが付いております。スポットライトのベースになるのが、いわゆる配線ダクトなんですが、これをつけるのが大変でした。 天井板も、全部重要文化財。重要文化財の建造物には一切釘を打ってはならない、そういった問題が立ちはだかるわけです。文化庁は2年ぐらいやり取りをしました。最終的にこの形で認めていただきました」と石田太一氏。
パナソニックEW社と協議して解決した方法は、穴を開ける天井板のみ新しい板と交換すること。実際に見てみると、少し茶色の色合いが異なり、艶のある天井板があります。これが実は交換した分の天井板。交換した天井板に穴を開けて、そこに配線ダクトを取り付けているというわけです。
ライトは2種類で、障壁画用のスポットライトは照射物の色を忠実に再現する高い演色性の光が特徴です。高演色スポットライト個別調光タイプ(NNQ32092BK LE1)で、器具光束は935lm、色温度は3500K、消費電力は14W。
パソニックEW社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 福澤広行氏は、「障子越しのやわらかい光を当てているような自然なあかりを目指しました。一般的には50ルクスくらいですが、40ルクスほどに抑えています。個別に調光できるので、バランスを見ながら調整しています」と語りました。
照明がついてもピカッと照らす感じは一切なく、とても自然でした。
また、年に2回写経を行われるということで、写経用ベースレイトも設置されました。
こちらはベースライト「配線ダクト用グレアセーブライン(NNN35002B LE1)」を採用。器具光束2640lm、色温度3,500K、消費電力30.5W。
東山魁夷画伯はふすまから入る光も計算し、晴天、曇天では、違う表情を見せるように描いているとのこと。明るくするとエメラルドグリーンに、暗くするとグレーに見える海は、本物の海のようにまわりの明るさによって印象が変わります。照明がついても、ピカッと照らす感じは一切なく、とても自然でした。
なお、東山魁夷画伯の御影堂障壁画は一般公開されていません。特別公開日などには見ることができますので、唐招提寺のサイトなどをチェックしてくださいね。本当にすばらしいお寺でした。